星のかけら ブログ

岐阜県東濃地方を中心に鳥や虫などを観察しています。私たちのまわりには不思議がいっぱい散らばっています。虫嫌いな人はごめんなさい。たまに可愛い芋虫も出てきます。

湿地の宝石(1)〜ヒメヒカゲ

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私の住む岐阜県東濃地方は、日本一の陶器の生産地です。普段使いの食器から茶道具まで様々な陶磁器が作られています。ここが陶器の一大生産地になったのは、良質な陶土が取れるからです。

水を通しにくい陶土層の上に砂礫層があると、そこから水がしみ出し、いつも湿っている状態の湧水湿地が生まれます。湿地は植物が育ちにくい環境なので、背の低い植物しか生えず、一見すると林の中にぽっかりと穴が開いたような空間に見えます。そんな湧水湿地が東濃地方ではいたるところに見られます。

湿地は人間生活には全く役に立たない空間なので、すぐに住宅地やゴルフ場に変えられたり、道路が通ったりします。事実、私がここに住み始めてから30年あまりで、なくなった湿地はいくつもあります。ところが、そこに棲む生きものにとっては貴重な生活空間なのです。

湿地には珍しい植物や昆虫がたくさんいます。珍しいというのは微妙な表現で、湿地では普通に見られる生きものですが、その湿地自体が減ってしまっているので、そこでしか棲めない生きものが見られなくなっているのです。

その代表が、ヒメヒカゲという蝶です。以前からずっと会いたかったのですが、昨日やっと会うことができました。トパーズ色の翅に銀色のスジ、金色で縁取られた漆黒の紋(その中央に銀の点)がまるで宝石のようでした。幼虫が湿地に生える植物を食べるので、成虫も湿地でしか出会えません。人間にとっては役に立たない湿地でも、ヒメヒカゲにとっては貴重な生活の場なのです。

人間がいる限り、湿地は必ず減っていくでしょう。そして、湿地でしか棲めない生きものは減っていくに違いありません。もう少し湿地の大切さを知ってもらいたいのですが。